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山病 5話

第5回 冬山登山
積雪した冬山に登る。
まさか、僕が冬山に登るなどとは、考えても いなかった。
登山シーズンをとっくに過ぎた冬山に登る人は、余程の事情がある人だろうと思っていた。
家の中でストーブを焚き コタツに入っていても寒いのに、積雪した山に登るとは。
考えただけで、寒いのを通り越している。そんな馬鹿なことはしない。そう思っていた。

その僕が雪山に登った。
昨年は、特に雪が多かったようだ。
ネット友人の GENさんが、冬山、樹氷の素晴らしさを伝えてくれる。
春までコタツの中と思っていたが、サイトの雪山の素晴らしさが刺激になった。
タイヤチェーンを手に入れ、重い腰をあげた。

行き先は久住山。GENさん、yukkiさんが伝える沓掛山の樹氷を見たいと思った。
タイヤチェーンを巻き登山口まで、かなり苦労してたどり着いた。

初めてアイゼンを付け、雪道を歩いた。
樹氷のトンネルだ。サイトで見た以上の感動を受けた。
沓掛山までの予定が、足はドンドン前に進み、星生山の山頂まで来てしまった。
時間に余裕があれば、久住山頂まで、行けた。

雪山の神々しさは、実際体験した人でないと分からないと思った。
言葉では、表せない光景だ。言葉で伝える事は難しい。
単独行の加藤文太郎も、雪山ばかり選んだようにして登っている。
植村直己は 北極圏だ。雪で何もかも覆い隠された中を歩いている。

これは、山病の最たるものだ。
山の気温はマイナス10度以下だった。
家に居ると15度でも寒いと感じるのに、マイナス10度以下でも、風が無いと寒くない。
むしろポカポカ陽気で暑いくらいだ。
誰かが、天気のいい日の雪山は天国です。と言っていた。
本当に天国だと思った。

しかし、風が出ると一変する。
山頂の風の冷たさには 驚いた。
そして、冬山の遭難はこの寒さのせいだ とも思った。
風の冷たさは、映画 雪中行軍 八甲田山 の世界だった。
しかし、それ以上の感動が雪山にはある。
危険を冒して 雪山登山をする人の心が、少し見えたような気がした。

初めての久住雪山登山以来、雪が降るのが待ちどうしくなった。
これは山病だ。暖房か冷房の効いた部屋でないと部屋じゃないと思っていた。
その僕が、雪が降るのを 心密かに待つようになった。変わったものだ。

夏山を経験し、雪山を経験した。山病がドンドン進んでいる。
(続く)



仰烏帽子山(熊本県)樹氷の登山道

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